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広島高等裁判所 平成9年(ネ)7号 判決 2000年5月24日

控訴人 山内純二

被控訴人 国

代理人 勝山浩嗣 長尾健二 ほか六名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨(予備的に担保を条件とする仮執行免脱宣言)

第二主張

一のとおり原判決を補足し、二、三のとおり当事者の主張を補足するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決五頁一行目、一八頁二行目、三一頁七行目及び同八行目の「懲罰委員会」を「懲罰審査会」と改める。

2  原判決八頁八行目から同九行目(にかけての「国際人権規約B一〇条、一七〇条」を「市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「人権規約」という。)一〇条、一七条」と改める。

3  原判決一〇頁三行目の「これに対する」の次に「不法行為の後である」を加える。

二  控訴人

1  心得の規定

本件懲罰当時の心得は、未決被収容者の居室内での動作について、『居室内の座席は、・・・定められているので、みだりに席をかわったり、立ち歩いたり、寝ころんだり、ふとんにもたれかかったり、窓ぎわに立つことはしないこと。』『窓格子に手を触れたり、居室から外部をのぞき見したり、職員の様子をうかがうようなことはしないこと。』と規定していた。

2  憲法違反

しかし、心得が定める姿勢の強制は、以下のとおり必要性及び合理性がないから、憲法に違反する無効なものであり、国村首席が心得に基づき控訴人の姿勢を注意したことは違法である。

(一) 被控訴人は、心得が自殺や自傷の防止のために役立つと主張する。

しかし、自殺や自傷は心の中に潜んでいることであるから、その観察に当たってはその身体や心理の把握が最も重要なはずであり、心得による姿勢の制約が右観察に役立つとは到底思えない。

(二) 日常生活において一定の姿勢を保つためには相応の体力が必要であり、相応の肉体的労苦を伴うものである。まして、拘置所の房のような和室において、寝転ぶことなどを終日禁止され、座位を強制された時、老人や子供はもとより成人男子に限っても大きな肉体的精神的疲労をもたらすことは明らかである。

(三) 入国管理局の収容場及び代用監獄においては、心得のような姿勢の強制はなされていない。

被控訴人は、入国管理局の収容場及び代用監獄と拘置所との差異について縷々主張するが、自殺や自傷の危険という観点からすれば、入国管理局の収容場と拘置所との間に差異はないはずであり、拘置所の物的構造ないし人的配置が代用監獄に比して不備だというのであれば、予算措置を取ればよいのであるから、拘置所において心得を設けることを正当化する理由とはならない。

3  人権規約違反

仮に2が認められないとしても、心得が定める姿勢の強制は、人権規約に違反する無効なものであり、国村首席が心得に基づき控訴人の姿勢を注意したことは違法である(人権規約は、昭和五四年九月二一日にわが国でその効力が発生しているところ、その内容に鑑みると、原則として自力執行的性格を有し、国内での直接適用が可能であると解されるから、人権規約に抵触する国内法はその効力を否定されることになる。)。

(一) 人権規約一〇条一項は、「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して取り扱われる。」と規定し、同条二項(a)は、「被告人は、例外的な事情がある場合を除くほか有罪の判決を受けた者とは分離されるものとし、有罪の判決を受けていない者としての地位に相応する別個の取扱いを受ける。」と規定している。

そして、条約法に関するウィーン条約(以下「ウィーン条約」という。)三一条一項は、条約の一般的解釈原則につき、文脈によりかつその趣旨目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈すべきことを規定し、同三二条は、文言が曖昧であったり、三一条に則った解釈によると明らかに常識に反した又は不合理な結果がもたらされる場合には、解釈の補足的な手段に依拠することができると規定しているところ、人権委員会(人権規約二八条)の一般的意見(同四〇条四項)は、右の補足的な手段に含まれると解されている。

(二) しかるところ、人権委員会は、人権規約一〇条についての一般的意見として、以下のとおり述べている。

(1) 一〇条一項は、締約国に対し、自由を奪われているため、特に弱い立場にある人々に対する積極的義務を課し、七条に含まれる拷問及び残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い若しくは刑罰の禁止規定の補完をなすものである。このように、自由を奪われている人々は、医学的・科学的実験を含む七条に違反する取扱いを受けなくてよいだけでなく、自由の剥奪から生じるもの以外の苦しみや圧迫も受ける必要はない。このような人々の尊厳に対する尊重は、自由な人の尊厳に対するのと同一条件下で保障されなければならない。自由を剥奪された人々は、閉鎖された環境ゆえに避けられない条件は別として、規約に規定するすべての権利を享有する。

(2) 一〇条二項(a)は特別の場合を除いて、有罪の確定判決を受けた者から被告人を分離することを規定している。このような分離は、一四条二項に規定されている通り、有罪とされるまでは無罪の推定を受ける権利を享有するこれらの人々の地位を強調するために必要とされる。締約国の報告は、被告人が有罪とされた者からどのように分離されているのか、被告人の取扱いと有罪とされた者との取扱いがどのように異なるのかを示すべきである。

(三) わが国において、未決被収容者は、強制労働の対象とされず短髪や囚人服が強制されないなどの点では、一応受刑者とは異なった処遇がなされている面がある。

しかし、他方において、未決被収容者は、心得で規定されているように、その居房内の姿勢の規制を含め、日常生活の細部にわたり、受刑者とほとんど同一のきめ細かな規則ずくめの生活が強いられており、このような制限が必要かつ合理的なものといえないことは前記のとおりである。

したがって、心得は、未決被収容者に対し、右一般的意見にいう「自由の剥奪から生じるもの以外の苦しみや圧迫」を与えるものであり、「自由を奪われている人々…の尊厳に対する尊重は、自由な人の尊厳に対するのと同一条件下で保障されなければならない。」「自由を剥奪された人々は、閉鎖された環境ゆえに避けられない条件は別として、規約に規定するすべの権利を享有する。」に違反しているから、人権規約一〇条に違反すると解すべきである。

三  被控訴人

1  控訴人の主張1は認める。

2  同2は争う。

(一) 心得は、被収容者に対して一定の姿勢をとることを求めているものではなく、職員の巡回視察を容易にし、精神状態の不安定な者、身体の具合の悪い者、自殺・自傷した者、逃走者等の異常事態の発見等を迅速に行うという必要のために、被収容者が一定の姿勢をとることを禁止しているものである。

即ち、被収容者が横になったり、寝具に寄り掛かっていれば、被収容者が体調が悪くてそのような姿勢をしているのかを一見して判断することが困難であり、被収容者の体調等をも十分把握しようとすれば、更に房内の被収容者の状況について個別具体的に十分な時間をかけて監視し、また、必要に応じて質問などをせざるを得なくなる。そうすると、被収容者一人当たりの動静視察の時間が長くなり、他の大勢の被収容者に対する視察密度が薄くなったり、あるいは被収容者の出願に対応した職員の処理時間が遅延するなどの事態が生じ、ひいては、被収容者の処遇事務の低下を招くことになってしまうのである。このことと、拘置所における人的体制及び物的設備を考えると、被収容者が一定の姿勢をとることを禁止した心得は、被収容者の拘禁目的を達するために必要かつ合理的な制限ということができる。

(二) 心得の趣旨は右のとおりであるから、現実の運用として、便所、洗面、掃除及び私物を取るために立ち歩くといった行動まで制限しているわけではない。また、拘置所では、控訴人が在監当時も、未決被収容者について、毎日昼食後から四五分(休日は一時間四五分)自由な姿勢による午睡時間を設けるとともに、毎日午前、午後の各一回一五分ずつの居室内における体操時間を設けていたのであり、「未決被収容者が寝転ぶことなどを終日禁止され、座位を強制されている」との控訴人の主張は誤りである。

(三) 入国管理局の収容場及び代用監獄と拘置所の間には以下のような差異があるから、入国管理局の収容場及び代用監獄で被収容者の姿勢についての規制が行われていないからといって、心得が必要かつ合理的なものではないとはいえない。

(1) 入国管理局の収容場

拘置所及び代用監獄は、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)六四条等において勾留又は留置すべき監獄として監獄法に基づいて設置され、被収容者は、犯罪の嫌疑及び逃亡、罪証隠滅のおそれ等を要件として収容される(刑訴法六〇条一項、一九九条、二一〇条、二一三条)。これに対し、入国管理局の収容場は、出入国管理及び難民認定法(以下「出管法」という。)に基づいて設置され(出管法四一条二項)、被収容者は、退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当な理由がある場合等に収容令書等によって収容され(同法二四条、三九条、三条本文、五二条五項)、退去強制事由該当性について故意過失等の主観的要件は必要とされていない。したがって、入国管理局の収容場の被収容者に関しては、逃亡、罪証隠滅のおそれ等があるとしても、逃亡、罪証隠滅のおそれ等が収容の要件となる拘置所及び代用監獄の被収容者とは、その危険性が大きく異なっていることは明らかである。

また、拘置所及び代用監獄における収容期間は、起訴がされると、当初の勾留期間は公訴提起日から二か月、更新は原則として一回一か月だけとされているものの、刑訴法八九条一号、三号、四号又は六号に該当する場合は、さらに一か月ごとに更新することができ、更新回数の制限はない(同法六〇条二項)。これに対し、入国管理局の収容場における収容期間は、原則として三〇日以内とされ、やむを得ない事由がある場合に三〇日に限り延長が認められ、退去強制令書が発行された場合には速やかに送還先に送還しなければならない(出管法四一条一項、五二条三項)。したがって、入国管理局における収容期間は、拘置所及び代用監獄における収容期間と比較して一般的に相当短期であるといえる。

以上のような相違に加え、入国管理局の収容場の被収容者については、保安上の支障が生じない範囲内でできる限りの自由が与えられなければならないとされていること(出管法六一条の七第一項)を併せると、入国管理局の収容場における被収容者の戒護上の措置に関する規制が拘置所及び代用監獄の規制より緩和されたものであったとしても、何ら問題はない。

(2) 代用監獄

代用監獄における成人男子居房の一般的な構造としては、留置室の前面に一人の看守を配置しただけで、複数の留置室における現状を同時に把握することができる構造となっているのに対し、拘置所における居房の一般的な構造としては、多数の居房が一本の廊下に面して並列配置されており、担当台はその廊下の中央付近に配置されているため、看守において複数の居房内の状況を同時に把握することは不可能であり、廊下を往復して各居房内の状況を個別に把握しなければならないのである。

そして、刑事被告人については独居が原則であるから(監獄法施行規則二四条、これは当然被疑者にもあてはまる。)、一般的にみて、代用監獄における被収容者数が拘置所におけるそれよりも少数になること、即ち担当職員一人が看守する被収容者数が拘置所におけるそれよりも少数になることは明らかである。

したがって、代用監獄における被収容者の戒護上の措置に関する規制が拘置所の規制より緩和されたものであったとしても、何ら問題はない。

3  同3は争う。

(一) ウィーン条約三一条の規定からすれば、条約の解釈の出発点は、条約正文の意味を解明することであり、正文を離れて当事国の意思を探求することはできず、また、正文の意味は、その文言が用いられた文脈の全体のうちで、文言の通常の意味にとらえられるべきである。

このような見地から人権規約一〇条を解釈すると、同条一項の「人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して取り扱われる。」とは、自由を奪われたすべての者は、人間としての尊厳を無視するような、例えば、拷問的隷属的な状態に置かれることがないとの意味であると解されるし、同条二項(a)の「有罪の判決を受けた者とは分離されるものとし、有罪の判決を受けていない者としての地位に相応する別個の取扱いを受ける。」とは、未決被収容者を、受刑者とは別個の場所に置いて、被告人としての法的地位に応じた処遇を受けさせるべきであること、即ち、受刑者と被告人との法的地位の差異に基づく処遇の相違を確保することによって、被告人としての法的地位を担保することを意味するものと解することができる。

したがって、未決被収容者は、面会及び発信の度数等においては、受刑者とは別個の取扱いを受けるべきであるが、被収容者の法的地位によって差異のない居室内での生活要領等の日常生活にわたる個別具体的な処遇の一場面においてまで、受刑者と別個に取り扱わなければならないと解すべき根拠はない。

以上のような見地に立って考えると、心得による姿勢の規制は、被収容者を拷問的隷属的な状態に置くものではなく、また、被告人としての法的地位にふさわしくない処遇に当たるということもできないから、人権規約一〇条一項及び二項(a)に違反するものと解することができないことは明らかである。

なお、人権規約一〇条一項及び二項(a)の意味は、ウィーン条約三一条に照らして明確であるから、同三二条にいう条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠する余地はないというべきである。

(二) 人権委員会の一般的意見は、締約国に人権規約の解釈及び実施に当たって参考とすべきことを求めるものにすぎず、法的拘束力を有するものではないから、心得が一般的意見に違反するといってみても、意味がないものである。

(三) また、前記2で述べたところによれば、未決被収容者が一定の姿勢をとることを心得によって禁止されていることは、一般的意見にいう「閉鎖された環境ゆえに避けられない条件」に該当すると解することができるから、心得が一般的意見に違反するともいえない。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。

その理由は、一のとおり原判決を補正し、二のとおり控訴人の主張に対する判断を補足するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

1  原判決三五頁四行目の次に改行して次のとおり加え、同八行目の「原告本人」の次に「(原・当審)」を加える。

「本件懲罰当時の心得は、未決被収容者の居室内での動作について、『居室内の座席は、…定められているので、みだりに席をかわったり、立ち歩いたり、寝ころんだり、ふとんにもたれかかったり、窓ぎわに立つことはしないこと。』『窓格子に手を触れたり、居室から外部をのぞき見したり、職員の様子をうかがうようなことはしないこと。』と規定していた。」

2  原判決三七頁一〇行目(の「同月」を「一二月」と改める。

3  原判決四〇頁八行目及び四一頁一〇行目の「懲罰委員会」を「懲罰審査会」と改める。

4  原判決四二頁四行目の冒頭に「証拠(<略>)によれば、」を加える。

5  原判決四五頁六行目の「(二)」の次に「証拠(<略>)によれば、本件懲罰当時の心得は、遵守事項として『次に掲げる…遵守事項…に違反すると、監獄法五九条によって懲罰を受けることがあります。』『…生活の心得…にもとづく職員の指示に対し、抗弁、無視その他の方法で反抗してはならない。』と規定していたこと、右心得は、冊子として拘置所の各監房内に備え置かれていたことが認められる。そして、」を、同七行目の「ことではなく、」の次に「心得に基づき」をそれぞれ加える。

二  控訴人の主張に対する判断

1  憲法違反の主張について

(一) 前記争いのない事実と認定事実によれば、国村首席は、心得の『ふとんにもたれかかったり、…しないこと。』との定めに基づき控訴人を注意したものであるところ、証拠(<略>)によれば、<1>心得が被収容者に対して寝具に寄り掛かることを禁止しているのは、身体の具合の悪い者や自殺・自傷した者の発見を迅速に行うためであること、<2>被収容者に対して寝具に寄り掛かることを一般的に許容した場合、看守において、被収容者が体調が悪くてそのような姿勢をしているのか否かを一見して判断することが困難となること、<3>広島拘置所における居房の構造は、約三〇の居房が一本の廊下に面して並列配置されており、担当台はその廊下の中央付近に配置されているため、看守において複数の居房内の状況を同時に把握することは不可能であり、廊下を往復して各居房内の状況を個別に把握しなければならないこと、<4>広島拘置所において看守一人が担当する被収容者は、平均して約三〇名であること、<5>右のような被収容者に対する姿勢の規制は、広島拘置所のみならず、京都拘置所や神戸拘置所においても前記の理由に基づき行われていること、以上の事実が認められ、これによれば、心得が寝具に寄り掛かることを禁止しているのは、監獄内部における規律及び秩序を維持しその正常な状態を保持するという目的のため必要な措置であると認められる。

また、被収容者は、心得の右定めによって寝具に寄り掛かることを禁止されるほか、みだりに居室内の座席をかわること、立ち歩くこと、寝転ぶこと、窓ぎわに立つこと、窓格子に手を触れたり、居室から外部をのぞき見したり、職員の様子をうかがうことを禁止されているものの、前記争いのない事実、認定事実と証拠(<略>)によれば、<1>心得の定めは、被収容者に対して一定の行為をすることを禁止するものにすぎず、一定の姿勢を保つよう強制するものではないこと、<2>広島拘置所においては、本件懲罰当時、未決被収容者に対し、毎日午前と午後に各一五分ずつ体操時間を設けていたほか、毎日午後〇時一五分から四五分間(休日は一時間四五分間)の午睡の時間を設けていたこと、<3>被収容者は、右心得に違反したということのみで懲罰を受けるものではなく、懲罰の対象となるのは、心得に基づく職員の指示に対し抗弁、無視その他の方法で反抗する行為であること、以上の事実が認められ、これらによれば、心得の前記定めによって被収容者が苦痛を被るとしても、前記の拘禁目的を達成するためやむを得ない制限というべきである。

(二) 右(一)に関し、控訴人は、心得が違法であることの根拠として、入国管理局の収容場及び代用監獄において心得と同様の規制が行われていないことを指摘する。

しかし、刑訴法、出管法の各規定及び証拠(<略>)によれば、入国管理局の収容場及び代用監獄と拘置所との間には、被控訴人が指摘する差異があると認められるから(なお、代用監獄と拘置所の差異について付言すれば、代用監獄は主として起訴前勾留に利用されるものであるため、収容期間が拘置所における収容期間と比較して一般的に短期であることを指摘することができる。)、入国管理局の収容場及び代用監獄において心得と同様の規制が行われていないからといって、心得が違法であるとはいえない。

(三) 以上によれば、心得による自由の制限は必要かつ合理的なものと認められ、心得が憲法に違反するとはいえないから、国村首席の控訴人に対する注意が違法であるとの控訴人の主張は、その前提を欠き理由がない。

2  人権規約違反の主張について

(一) 人権規約一〇条一項は、「自由を奪われたすべての者は、人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して取り扱われる。」と規定し、同条二項(a)は、「被告人は、例外的な事情がある場合を除くほか有罪の判決を受けた者とは分離されるものとし、有罪の判決を受けていない者としての地位に相応する別個の取扱いを受ける。」と規定しているところ、右規定を、控訴人指摘の一般的意見を補助的資料として使用したうえ、文脈により、かつその趣旨目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈すると、一〇条一項は、自由を奪われている人々は、医学的・科学的実験を含む七条に違反する取扱いを受けなくてよいだけでなく、「自由の剥奪から生じるもの以外の苦しみや圧迫」も受けてはならないこと及び「閉鎖された環境ゆえに避けられない条件」は別として規約に規定するすべての権利を享有することを定めたものであり、同二項(a)は、自由を奪われている人々のうち被告人については、一四条二項に規定されているとおり、有罪とされるまでは無罪の推定を受けていることに鑑み、受刑者と分離して収容すべきこと及び自由の制約によって被告人としての防御権を侵害してはならないことを定めたものと解すべきである。

(二) ところで、未決勾留は、刑訴法の規定に基づき、逃亡及び罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであって、右の勾留により拘禁された者は、その限度で身体的行動の自由を制限されるのみならず、前記逃亡又は罪証隠滅の防止の目的のために必要かつ合理的な範囲において、それ以外の行為の自由をも制限されることを免れないのであり、このことは、未決勾留そのものの予定するところでもある。また、監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたっては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、この目的達成のために必要がある場合には、未決勾留によって拘禁された者についても、この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることはやむを得ないというべきである。

そうすると、右のような未決勾留及び監獄の制度目的達成に必要な自由の制限は、人権規約が禁じた「自由の剥奪から生じるもの以外の苦しみや圧迫」には該当せず、また、人権規約の許容する「閉鎖された環境ゆえに避けられない条件」に該当すると解すべきであるから、心得は一〇条一項に違反するものではないと解するのが相当である。

また、心得は、被収容者にある程度の苦痛を与えることは避けられないものの、被告人としての防御権を侵害する性質のものとはいえないから、心得は同条二項(a)にも違反するものではないと解するのが相当である。

(三) なお、控訴人は、心得が人権規約一七条一項の「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。」及び同条二項の「すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。」に違反するとも主張するが、その理由は明確でなく、採用の限りでない。

(四) 以上によれば、心得が人権規約に違反するとはいえないから、国村首席の控訴人に対する注意が違法であるとの控訴人の主張は、その前提を欠き理由がない。

第二結論

よって、原判決は相当で、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡浩 野々上友之 太田雅也)

〔参考〕第一審(広島地方裁判所平成六年(ワ)第一二九六号 平成八年一二月二五日判決)

主文

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一 請求原因

1 当事者

原告は、平成五年一〇月七日に脅迫の被疑事実で広島西警察署において逮捕され、同月二五日には傷害の被疑事実で広島中央警察署において逮捕され、さらに、同年一一月四日広島拘置所(以下、「拘置所」という。)に移監された者である。

被告は、刑事事件の被疑者や被告人の身柄を確保するため、広島拘置所を設置し、本件の関係者を含む職員をして、その目的に従事させるものである。

2 原告は、平成五年一二月一〇日、後述する原告の障害及び病状を全く知らない首席矯正係官の国村修(以下、「国村首席」という。)の巡視に際し、居房において座位で壁にもたれている姿勢を同人からとがめられ、これに対して弁明したところ、同月二二日の懲罰委員会を経て、軽屏禁一〇日間(私服の着用、運動・筆記・通信・面会・読書などの禁止、食事・入浴などの制限も併科)に処せられた(以下、「本件懲罰」という。)。

3 原告は、拘置所に拘禁される以前から左股関節機能全廃の障害を有し、また、勾留当初から微熱に侵され、拘置所に移監の後も微熱が続き、投薬を受ける状態にあったにもかかわらず、本件懲罰の執行を受けた。

4 前項の処分は、次のとおり違法性がある。

(一) 本件の事実関係について

(1) 原告の姿勢の点について

本件懲罰に関して、原告は、国村首席から、布団にもたれかかっていることが未決被収容者の心得(昭和五五年三月一〇日付達示第二三号、以下、「心得」という。)に反するものとして、注意を受けたとされているが、それは国村首席の主観的判断にすぎず、また、原告は、具合の悪いとき同一の姿勢をたまにした際、担当の刑務官に見られたにもかかわらず、注意されたことはないことからすれば、布団にもたれかかるという姿勢か否かは刑務官個々人の主観的・恣意的判断に左右されるものであるといえ、原告には、「心得」に反する行為は存在しない。

(2) 原告が国村首席に対して弁明した点について

本件懲罰の対象となった事実関係については、以下のとおりである。まず国村首席が、「おい、おまえ、何かその態度は。」と高圧的な命令調で言ったのに対し、原告は、気分を害して二、三回聞こえない振りをすると、国村首席は、次第に声を荒らげた。原告が、三回目くらいに「はぁー。」と返事をすると、国村首席は、「布団にすがるな。」と言ったので、原告は、「自分は具合が悪いんですよ。」「医務にも舎房さんにも言っとるですよ。」「聞いてみんですか。」と弁明したところ、国村首席が、「何か。その言い方は。」と言ってきた。これに対して、原告は、「これは普通ですよ。」と答えたが、国村首席は、原告を保安課に連れていったというものである。右の過程において、原告の声は普通の大きさであって、語気が荒いというものではなかった。

(二) 「心得」の違憲性

拘置所における拘禁は、被疑者の身柄確保を唯一の目的としているのであるから、居房における言動は、原則として自由である。

「心得」には、居室内では、座席が定められ、席を替わることや、歩くこと、寝ころぶこと、布団にもたれかかること等の行為が禁じられているが、「心得」による右制約は、罪証隠滅と関連性がなく、また、布団にもたれかかることと被拘禁者の逃走との関係も不明であり、さらに、居室内で、一定の姿勢を保っていなければ規律が乱れ、秩序が維持できないとは言い難く、「心得」による制約が、施設内の規律と秩序維持とどのような関係があるのかも不明であることからすれば、「心得」による制約は、必要にして合理的な範囲内の制約とはいえない。日本の刑事施設において人権侵害が存在し、日常的生活を細部にわたって規定すべきでなく、「心得」が国際人権規約B一〇条、一七〇条に違反しているものである(人権遵守の状況を監視しその遵守を促進する非政府機関であるヒューマン・ライツ・ウオッチからも指摘されているところである。)。

(三) (一)の事実関係のもとにおける本件懲罰の違法性

(1) 原告の姿勢は、そもそも布団にもたれかかるというものではなく、これに対する国村首席の注意は違法なものであり、また、原告は、国村首席の右注意に対して、「抗弁」にあたる言動をしたことはないのであるから、原告の右言動は、「抗弁」にあたらず、これに対する懲罰は違法なものである。

(2) 原告は、本件懲罰の執行を受ける当時、3項記載の障害及び病状にあったのであるから、原告の右状況を配慮しないで執行された本件懲罰は、違法である。

5 原告は、本件懲罰の執行により、3項記載の制限を受けたことにより、肉体的・精神的に多大な苦痛を余儀なくされた。原告の右苦痛を慰謝すべき金員は一〇〇万円を下らない。

6 よって、被告は、原告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、損害金一〇〇万円及びこれに対する平成六年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、原告が、平成五年一二月一〇日、国村首席の巡視に際し、壁にもたれている姿勢を同人からとがめられ、反論したところ、本件懲罰に処せられ、その執行を受けたことは認め、その余は否認ないし争う。

3 同3の事実のうち、本件懲罰の執行を受けたとの点は認め、拘置所に拘禁される以前から左股関節機能全廃の障害を有していたとの点及び拘置所に移監の後も微熱が続き、投薬を受ける状態にあったとの点は否認し、その余は不知。

4 同4ないし6はいずれも否認ないし争う。

三 被告の主張

1 本件懲罰に関する事実関係について

(一) 本件懲罰に至る経緯

(1) 原告は、平成五年一一月四日、広島中央警察署から拘置所に移監され、同所における入所手続後独居拘禁された。

(2) 原告は、前項の入所手続の際の質問調査において、昭和六三年ころの交通事故による左足骨折の後遺症により身体障害者四級に認定されていて、歩行がやや困難であること及び微熱のあったこと等申し立てたが、右歩行状態は、通常人に比して多少緩慢であるものの、日常の諸動作に問題なく、微熱に関しては、外見上の異常は認められなかったので、新入時健康診断の時に申し出るよう申し向けられた。

また、原告が携帯していた医薬品については、医師である拘置所医務課長が検討したところ、発熱等の症状が生じた際に投薬することとして、領置することとした。

(3) 同月五日、医務課長が、原告の新入時健康診断を実施した結果、呼吸音、心音に異常は認められず、体重六三・〇キログラム、体温三六・七度、最高血圧一二二、最低血圧七六で、健康上の異常は認められなかった。

右健康診断の際、医務課長の問診に対し、原告は、前項記載の交通事故の後遺症による障害があること及び同項記載の自覚症状を訴えたが、右自覚症状の訴えを認めてもらえなかったため、不満の意を示し、「もうええ。」と言って、椅子から立ち上がるなどした。

(4) 医務課長は、前項の健康診断の結果に基づき、前記障害に関して、原告に対し、舎房内等における投足(足を投げ出して座ること)を許可し、また、夜間等の発熱等の申出に備えて、職員に対して投薬すべき薬品及びその用法を指示し、原告にもその旨言い渡した。

(5) 同日、広島中央警察署に対する電話照会の結果、原告が微熱の出る状態であったことが判明したため、医務課長の指示により、同月六日から当分の間、定期検温を毎日二回(午前一〇時及び午後三時)及び原告からの申出があった際に行ったところ、同月一七日までの間、三七度を超えていたのは五回であった。

医務課長は、同月一七日に採血検査を行い、その結果をふまえて、同月一九日の午前中の定期検温を最後に、これ以上原告の検温をする必要はないものと判断し、同日午後以降の定期検温を取りやめた。

なお、採血検査は右の検査の後、同年一二月一四日にも実施されたが、いずれも異常は認められず、前記五回の微熱については一過性のウイルス感染と診断され、それ以上の精密検査の必要はないと診断された。

(6) 拘置所処遇部門統括矯正処遇官である光岡英司(以下、「光岡統括」という。)は、同月九日午後二時二八分ころ、舎房巡回していた際、原告が、折り重ねた布団の上に右肘をつき、身体を右布団に寄り掛かり寝そべるような姿勢をしていたのを現認したため、原告に対し、「布団に寄り掛からないように。」と注意、指導したところ、原告は、ふてくされた表情を示してその場に立ち上がり、光岡統括に対し、「足が悪いと言うとろうが、医務に言うとる。」等操り返し述べたため、光岡統括は、それ以上その場で注意をすることは舎房内の静謐を乱すと判断して、原告を処遇部門第一調べ室に連行した。

光岡統括は、同所において、原告に対し、注意・指示等に対して素直な態度で受け答えするよう注意したところ、原告は、当初、険しい表情で光岡統括を見つめ、「体が悪いことは医務室に言ってある。足も悪い。」等繰り返し述べたが、光岡統括が説得したため、「保釈が許可にならず精神的にイライラしてしていた。医務には、体調が良くないことは言ってあるが、自分の思いどおりにならない。」等と述べ、光岡統括に対する前述の言動については、自己の非を認め、謝罪した。

そこで、光岡統括は、上司である国村首席に対して、右経過を報告の上、原告に対して、厳重注意に留めおくとして、同日午後二時五〇分ころ、原告を還房させた。

(二) 本件懲罰の対象となった事実関係について

(1) 国村首席は、同月一〇日午後三時一五分ころ、舎房巡回の際、原告が前項同様、居房内で西側の壁に背中をつけ、折り重ねた布団の上に右体側を寄り掛け、右布団上に右肘をついて右手にあごを乗せる姿勢で読書しているのを現認したため、原告に対し、布団に寄り掛からないよう注意したところ、原告は、「体が悪いからすがっとんじゃ。」等と述べ、右姿勢を改めず、国村首席の注意を無視する態度を示した。

そこで、国村首席は、「どこか悪いのか、職員に申し出ているのか。」と問いただしたが、原告は、右姿勢のまま、「言うとるわい、聞いてみいや、聞きゃーわかるじゃろうが。」等述べた。

(2) 原告は、同月一七日、矯正処遇官副看守長である松本政美から右事実についての取り調べを受けたところ、「身体の調子が悪く、新聞を読んでいたにしても、実際は、頭の中がボーツとした状態でただ見ていただけでしたので、注意の言葉もはっきり聞き取れないと言うのが事実でした。しかし、言われている意味は一応わかりましたので、私は、『体が悪いからすがっとんじゃー。』等答えたのです。その時の態度は、確かに横着な態度であったと思います。」等述べ、さらに、「その後の私の返事は、少し投げやりな言葉で『担当さんに聞いて下さいや、医務にも言うとるですよ。』等と言ったように思います。身体の調子のせいとはいえ、職員さんに反抗的あるいは投げやりな言葉を言ったことは悪かったと反省しています。」等供述し、規律違反行為であることを認め、供述調書に署名押印した。

同月二二日、原告にかかる懲罰委員会が原告出席の上開かれ、その際、原告に対し、規律違反行為である「抗弁」の事実を告知した後、弁解を促したところ、原告は、「冷静になって考えれば、大変申し訳ないことをしたと思っている。」などと申し述べて、右事実を認めた。

その結果、同日、本件懲罰を科すことが決定され、執行された。

(3) なお、原告の症状について、国村主席は、原告が拘置所に収容される際に記載する「自殺要注意者判定表」に原告の前記障害や症状が記載されているのを認識していること(右判定表に決裁印がある。)、毎日二回は現場を巡回しており、その際原告の動静について担当職員等から逐一報告を受けていたこと、そのため、自ら巡回する際にも原告の動静について注意を払っていたこと、国村首席も出席している拘置所内の処遇会議(平日毎日三〇分間行われている。)において、原告の前記障害及び症状について報告されていることなどから、原告の前記障害や症状について周知していた。

(三) 本件懲罰当時の原告の身体状況

(1) 右懲罰の執行の際、医務課長による原告の健康診断が行われ、原告は、医務課長の問診に対して、身体状況は良好である旨述べ、また、最高血圧が一三二、最低血圧が八〇、体重が六四・五キログラムで、健康状態等になんら異常が認められなかった。

(2) 原告は、本件懲罰を執行されたことについて「懲罰に不満があり、納得いかない。」旨述べて、懲罰執行開始の翌日である一二月二三日の朝食から同月二七日の朝食まで拒食したが、関係職員の説得により、同日の昼食から食事をとり始めた。

(3) 拘置所では、原告の右拒食を考慮して、同月二四日、二七日及び本件懲罰終了の言渡しのあった平成六年一月六日に医務課長による健康診断を実施したところ、次のとおり、いずれも異常は認められなかった。

<1> 平成五年一二月二四日の健康診断については、呼吸音及び心音に異常はなく、また血圧は最高が一二〇、最低が七〇で、体重が六二・〇キログラムであって、身体の状況に異常は認められなかった。

<2> 同月二七日の健康診断については、呼吸音及び心音に異常はなく、また血圧は最高が一二四、最低が八〇で、身体の状況に異常は認められなかった。

<3> 平成六年一月六日の健康診断については、呼吸音及び心音に異常はなく、また血圧は最高が一三〇、最低が七〇で、体重が六四・〇キログラムであって、身体の状況に異常は認められなかった。

その際、原告自身が、医務課長に対して、「自覚症状もなく、健康状態もよくなっている。」旨述べた。

2 本件懲罰の適法性

(一) 居房内における規制の適法性

(1) 未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃走又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであるところ、右勾留により拘禁された者は、その限度で身体的行動の自由を制限されるのみならず、前記逃走又は罪証隠滅の防止のために必要かつ合理的な範囲内において、それ以外の言動の自由をも制限されることを免れないのであって、このことは、未決勾留制度そのものの予定するところであり、憲法もこれを容認しているものというべきである(最高裁判所大法廷昭和四五年九月一六日判決(昭和四〇年(オ)一四二五号・民集二四巻一〇号一四一〇頁、同昭和五八年六月二二日判決(昭和五二年(オ)九二七号・民集三七巻五号七九三頁))。

また、監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたっては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があることから、監獄の長は、これを乱す者がいる場合には、その者が未決勾留によって拘禁されている者であっても、その者に対し、必要にして合理的な範囲内において、行政上の制裁である秩序罰を科すことが許される。

(2) 広島拘置所では、在監者が同拘置所内での生活を送る上で留意すべき事項を「心得」として規定し、その年でも、特に懲罰の対象となる行為を個別具体的に明らかにし、入所時に告知することとしている。「心得」第二6(一)には、「居室内の座席は、…寝ころんだり、ふとんにもたれかかったり、…しないこと。」と規定されている。

右規定は、職員の巡回視察を容易にし、身体の具合の悪いもの、自殺自傷したもの等の発見等を迅速かつ的確に行うために必要かつ合理的な理由があるものであるから、違法なものではない。

なお、警察署の代用監獄及び入国管理局の収用場は、監獄として設置されている拘置所と対比した場合、その法的根拠、拘禁目的、収用期間、収用人員数、人的及び物的設備、罪証隠滅及び逃走のおそれ等の事故発生の可能性という観点からみた被収容者の危険性等が異なることは明らかであるから、これらの場所で居室内での姿勢の強制が行われていないからといってこれと同一に論ずることはできない。

(二) 右事実関係における本件懲罰の適法性

(1) 原告は、本件懲罰当日、居室内で重ねた布団の上に右ひじを突き、右体側を同布団に寄り掛けて寝そべるような姿勢をしていたのであるから、この姿勢は明らかに前項記載の「心得」に違反しており、右「心得」違反行為を現認した国村首席が原告に対して注意、指導したところ、前記事実関係のとおり反論したのであるから、原告の右言動が、「心得」第三の三七の「…生活の心得…に基づく職員の指示に対し、抗弁、無視、その他の方法で反抗してはならない。」との規定中の「抗弁」に該当することは明らかであり、これに対して、懲罰を科すことは何ら違法ではない。

(2) 本件懲罰の具体的内容についても、以下のとおり、原告の未決被拘禁者としての身分を十分考慮して防御権を尊重し、また、健康上の配慮も行っていたのであるから、適法なものである。

<1> 軽屏禁は、受罰者を罰室内等一定の場所にとどめ、自戒及び他戒せしめるものであって、その目的は、受罰者に対しある程度の精神的・肉体的苦痛を与えることにより反省を促す点にあり、原告に科せられた右罰の期間については、標準よりも短いものであり、その併科として文書図画閲読の禁止等が科せられたのは、軽屏禁の懲罰効果を担保し、実効あらしめるためにすぎないのであるから、本件懲罰は、特に重いものではない。

<2> 衣服については、自衣の着用が禁止されている替わりに、広島拘置所が季節に応じた衣類(官衣)を原告に貸与しており、寒さの中で多大の苦痛を伴うような状態にはなかった。

<3> 食事については、自弁糧食は禁止されたものの、質量ともに健康保持に必要な栄養量を満たした官給の主食及び副食を給与しており、右の処分が違法な食事制限とはいえない。

<4> 戸外運動については、広島拘置所では、懲罰執行の日から七日目に行い、以後、五日ごとに実施することとしているが、当該日が休日、入浴日又は雨天等により実施できない場合には、その以後実施できる直近の日に行うこととしているところ、原告は一二月二二日に懲罰執行後、二八日が運動日に該当したものの、当日がちょうど入浴日であったことから拭身を実施している。その後、一二月三〇日から翌年一月三日まで年末年始により本件懲罰の執行を停止し、一二月三一日に運動を実施している。

<5> 入浴については、受罰者の健康状態の保持を考慮し、広島拘置所では、懲罰執行の日から起算して七日経過後の直近の入浴日に実施し、以後の入浴日に拭身・入浴を交互に行うこととしているところ、原告は、一二月二二日に懲罰執行後、入浴実施該当日である同月三〇日に入浴を実施している。

<6> 筆記及び通信については、原則的に禁止されているところ、一二月二七日弁護士宛信書を発信したいとして認書の許可を願い出てきたので、広島拘置所は、原告の被告人としての身分を考慮して、これを許可し、同信書の発信を許可している。

<7> 面会については、原則的に禁止されているところ、広島拘置所では、原告の防御権を尊重する趣旨から、一二月二四日、同月二七日及び同月二八日弁護士との面接を実施している。

<8> 読書については、原則として禁止されるが、弁護士宛の認書を許可した際、原告の訴訟用ノートの閲読の請求があったことから、これを許可している。

四 被告の主張に対する原告の認否

1 被告の主張1についての認否

(一) 右1(一)(1)の事実は認める。

(二) 同1(一)(2)の事実のうち、歩行の困難な程度が「やや」としている点及び「右歩行状態は、」から「申し向けられた。」間での部分は否認し、その余は認める。

(三) 同1(一)(3)の事実のうち、第一文については、健康診断が行われた点については認め、その余は不知。第二文については、原告が前記障害及び症状について訴えたことについては認め、その余は否認する。医務課長は、真摯な態度で原告の訴えを聞く姿勢を示さなかった。

(四) 同1(一)(4)の事実は不知。原告は、医務課長に対し、投足にしないと座れないことを述べ、それについて否定されなかったので、当然それが許され、また、発熱時には薬がもらえるものと理解したものである。

(五) 同1(一)(5)の事実のうち、第一文については、何度か定期検温があったことは認め、その余は不知。第二文については、採血検査があったこと、そのころ定期検温があったことは認め、その余は不知。第三文については不知。

(六) 同1(一)(6)の事実のうち、第一文については、冒頭から、「注意、指導したところ」までの事実については認め、その余は否認する。第二文については、否認する。光岡統括が原告の姿勢に対して注意したため、原告がそれに対して説明したところ、光岡統括が自分の誤解に気づいて態度が軟化したため、原告としては自分の言動が光岡統括に不快感を与えたのであれば悪かったと思い譲歩したものである。第三文については不知。原告は、厳重注意を受けたことはない。

(七) 同1(二)(1)の事実のうち、原告が両手で新聞を広げて読んでいた際に、国村主席から注意を受けたこと及びその日時・場所については認め、その余は否認する。原告は、国村主席から高圧的な態度で布団にすがるなと注意されたため、「担当に言っとる。具合が悪いからこうしとる。医務課長にも言っとる。聞いてみんですか。」と言ったのである。

(八) 同1(二)(2)の事実のうち、第一文については、原告に対する取調べがあったこと、被告主張の内容の供述調書が作成されたことは認める。第二文については、懲罰委員会が原告出席の上開かれたことは認め、原告の答弁内容は不知、その余は認める。ただし、原告は、国村首席が懲罰委員会の構成メンバーであったことから、何を言っても聞き入れてもらえないと思い、また、認めれば、相手の誤解で始まった軽微な事案であり、懲罰はありえないと考えていたことから認めたものである。第三文については認める。

(九) 同1(二)(3)の事実は不知。

(一〇) 同1(三)(1)の事実のうち、健康診断があったことは認め、身体状況が良好である旨述べたとの事実は否認し、その余は不知。

(一一) 同1(三)(2)の事実は認める。

(一二) 同1(三)(3)の事実のうち、健康診断があったことは認め、その余は不知。

4 被告の主張2についての認否

右主張はすべて争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一 争いのない事実

1 原告は、平成五年一一月四日、拘置所に移監され、同所における入所手続後独居拘禁された。

2 右入所手続の際に、医務課長による質問調査がなされたところ、原告は、交通事故による後遺症や歩行の程度、微熱の自覚症状について申し立てた。また、原告が携帯していた医薬品は、熱等の症状が生じた際に投薬することとして、領置された。

3 同月五日、医務課長による健康診断がなされたところ、その問診に対し、原告は、交通事故の後遺症による障害があること及び自覚症状を訴えた。

4 原告に対する定期検温は、同月六日から毎日二回(午前一〇時及び午後三時)及び原告からの申出があった際に行われ、採血検査は同月一七日及び一二月一四日に行われた。

5 光岡統括は、同月九日午後二時二八分ころ、舎房巡回していた際、原告が、折り重ねた布団の上に右肘をつき、右身体を右布団に寄り掛かる姿勢をとっていたのを現認したため、原告に対し、「布団に寄り掛からないように。」と注意、指導した。

6 国村首席は、同月一〇日午後三時一五分ころ、舎房巡回の際、原告が、折り重ねた布団の上に右体側を寄り掛け、右布団上に右肘をついて右手にあごを乗せる姿勢で新聞を読んでいるのを現認したため、これに注意した。

7 原告は、同月一七日、矯正処遇官副看守である松本政美から前項の事実についての取り調べを受けた際、原告が従前から体の調子が悪いと申し入れても認められないことを不服に思っていたこと、その当時も身体の調子が悪い上に、保釈が認められなかったために精神的にもいらだっていたこと等を述べ、さらに、前項の国村首席からの注意に対して、『体が悪いからすがっとんじゃー。』『担当さんに聞いて下さいや、医務にも言うとるですよ。』等言ったが、その言動は反抗的なものであったことを認め、反省している旨述べた。

しかし、結局、本件懲罰を科すことが決定され、執行された。

二 本件懲罰に関する事実関係

右争いのない事実及び証拠(<略>)によれば、以下の事実(1ないし3)が認められる。

1 本件懲罰に至る経緯について

(一) 原告は、一2の入所手続の際の質問調査において、前記障害及び自覚症状について医務課長に申し立てたが、原告の歩行状態は、通常人に比して多少緩慢であるものの、日常の諸動作に問題なく、微熱に関しては、外見上の異常は認められなかったので、新入時健康診断の時に申し出るよう言われた。

(二) 同月五日、医務課長が、原告の新入時健康診断を実施した結果、呼吸音、心音に異常は認められず、体重六三・〇キログラム、体温三六・七度、最高血圧一二二、最低血圧七六で、健康上の異常は認められなかった。

原告は、医務課長に自己の訴え(一3)を認めてもらえなかったため、不満の意を示し、「もうええ。」と言って、椅子から立ち上がるなどした。

(三) 医務課長は、前項の健康診断の結果に基づき、前記障害があるため、朝夕の点検時(各一、二分、右点検時には正座又は安座の姿勢をとることとされている。)において投足を許可するとともに、夜間等の発熱等の申出に備えて、職員に対して投薬すべき薬品及びその用法を指示し、原告にもその旨言い渡した。

(四) 同日広島中央警察署に対する電話照会の結果、原告が微熱の出る状態であったことが判明したため、医務課長の指示により、一4記載の検温を行ったところ、同月六日から一七日までの間、三七度を超えていたのは五回であった。

医務課長は、一一月一七日の採血検査の結果(一4)をふまえて、同月一九日の午前中の定期検温を最後に、これ以上原告の検温をする必要はないものと判断し、同日午後以降の定期検温を取りやめた(なお、採血検査はいずれも異常は認められず、前記五回の微熱については一過性のウイルス感染と診断され、それ以上の精密検査の必要はないと診断された。)。

(五) 原告は、同月九日午後二時二八分ころ、光岡統括の注意、指導(一6)に対し、その場に立ち上がって、反抗的な態度で、体の具合が悪く、足の状態が悪いこと及びその旨は医務にも言ってあること等、二、三回述べたため、光岡統括は、原告の右言動は許可を受けた投足に対して注意されたと勘違いしているためであり、それ以上その場で原告に対して注意をすると舎房内の静謐を乱すと判断して、原告を処遇部門第一調べ室に連れて行った。

光岡統括は、同所において、原告を椅子に座らせ、原告に対し、職員の注意・指示等に対する原告の前記言動について注意・指導したところ、原告は、当初、舎房のときと同様、体が悪い旨繰り返し述べていたが、光岡統括が、体が悪ければ職員に申し出るようにするよう説得したところ、原告は、「保釈が許可にならず精神的にイライラしてしていた。医務には、体調が良くないことは言ってあるが、自分の思いどおりにならない。」等と述べ、光岡統括に対する前述の言動については、自己の非を認め、謝罪した。

そこで、光岡統括は国村首席に対して、右経過を報告の上、原告に対しては、厳重注意処分にする旨告知して、同日午後二時五〇分ころ、原告を還房させた。

2 本件懲罰の対象となった事実関係について

(一) 前示のとおり(一6、7)、原告は、同月一〇日午後三時一五分ころ、国村首席から注意を受けた際、そのままの姿勢で(折り重ねた布団の上に右体側を寄り掛け、布団上に右肘をついて右手にあごを乗せる姿勢)、「体が悪いけぇすがっとるんじゃ。」等述べ、右姿勢を改めず、国村首席の注意を無視する態度を示した。

そこで、国村首席は、体のどこか悪いのか、また、職員に申し出ているのかどうか問いただしたが、原告は、右姿勢のまま、「言うとるわい、聞いてみいや、聞きゃーわかるじゃろう。」等述べた。

国村首席は、光岡からの報告により、原告が同月九日に厳重注意処分を受けるに至った1(五)記載の事情について了知しており、原告が、前日に注意を受け、反省の態度を示したにもかかわらず、その翌日にも布団にもたれかかる姿勢をとり、それを注意した職員に対して反抗的な言動をとったことから、職員に対する「抗弁」事犯に該当すると判断し、取り調べることとした。

(二) 原告は、同月一七日、前記「抗弁」事犯の有無につき、矯正処遇官副看守である松本政美による取調べを受けた際、自ら、反省している旨述べたうえ(一7)、本件懲罰にかる懲罰委員会の際にも、原告は、規律違反行為である「抗弁」の事実を告知された後、弁解を求められたところ、「冷静になって考えれば、大変申し訳ないことをしたと思っている。」などと申し述べて、右事実を認めた。

(三) もっとも、原告は、国村首席が原告の健康状況を認識せずに注意したものであると主張するが、原告の前記障害や症状が記載されている「自殺要注意者判定表」に国村首席の決裁印があること、毎日二回は現場の巡回が行われており、その際原告の動静について担当職員等から逐一報告を受けていたこと、そのため、自ら巡回する際にも原告の動静について注意を払っていたこと、国村首席も出席している拘置所内の処遇会議(平日毎日三〇分間行われている。)において、原告の前記障害及び症状について報告されていることからすれば、国村首席は、原告の前記障害や症状について十分周知していたものと認められ、原告の右主張に理由はない。

また、原告は、懲罰委員会において、自ら「抗弁」事犯を認める旨の答弁をするに至った事由につき、種々弁解するが、いずれも合理性のない主観的動機を述べるもので説得力がなく、「抗弁」事犯が存在したとの前記認定を妨げるものではない。

3 本件懲罰当時の原告の身体状態等について

本件懲罰当時の原告の身体状況及びこれに対する拘置所の対応について、以下の事実が認められる。

(一) 右懲罰の執行の際、医務課長による原告の健康診断が行われ、原告は、医務課長の問診に対して、身体状況は良好である旨述べ、また、最高血圧が一三二、最低血圧が八〇、体重が六四・五キログラムで、健康状態等になんら異常が認められなかった。

(二) 原告は、本件懲罰を執行されたことについて「懲罰に不満があり、納得行かない。」旨述べて、懲罰執行開始の翌日である一二月二三日の朝食から同月二七日の朝食まで拒食したが、関係職員の説得により、同日の昼食から食事をとり始めた。

(三) 拘置所では、原告の右拒食を考慮して、同月二四日、二七日及び本件懲罰終了の言渡しのあった平成六年一月六日に医務課長による健康診断を実施したところ、次のとおり、いずれの健康診断においても、異常は認められなかった。

(1) 一二月二四日の健康診断の結果、呼吸音及び心音に異常はなく、また血圧は最高一二〇、最低七〇で、体重は六二・〇キログラムであって、身体の状況に異常は認められなかった。

(2) 同月二七日の健康診断の結果、呼吸音及び心音に異常はなく、また血圧は最高一二四、最低八〇で、身体の状況に異常は認められなかった。

(3) 平成六年一月六日の健康診断の結果、呼吸音及び心音に異常はなく、また血圧は最高一三〇、最低七〇で、体重は六四・〇キログラムであって、身体の状況に異常は認められず、原告自身、自覚症状もなく、改善されている旨述べていた。

三 本件懲罰の適否

1 「心得」の合意性

(一) 未決勾留は、刑事訴訟法に基づき、逃走または罪証隠滅の防止を目的として、被疑者または被告人の居住を監獄内に限定するものであるところ、監獄内においては、多数の被拘禁者を収容し、これを集団として管理するにあたり、その秩序を維持し、正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには、被拘禁者の身体の自由を拘束するだけでなく、右の目的に照らし、必要な限度において、被拘禁者のその他の自由に対し、合理的制限を加えることもやむをえないところである。

そして、右の制限が必要かつ合理的なものであるかどうかは、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の態様との較量のうえに立って決せられるべきものというべきである(前記昭和四五年判決)。

(二) 証拠(<略>)によれば、本件懲罰の対象とされた原告の行為は、巡回中布団に寄り掛かる姿勢を保っていたことではなく、右姿勢を注意した被告係員に対して反抗的な態度で反論した行為(「抗弁」)であることが認められるところ、かかる「抗弁」をそのまま放置しておくことは、拘置所内の秩序を維持するうえで相当ではないから、これを全面的に禁止する必要があり、この意味で未決拘禁者の言動の自由に対する右制限には合理性があるといえる。

(三) なお、原告は、「心得」中一定の姿勢を禁じている規定は未決拘禁者に対して過度の制約を科すものであるから違憲であり、これに基づいて国村首席が原告の姿勢を注意することは違法であると主張する。しかしながら、右制約を科すことによって、巡回中の拘置所の職員は、居室内において、自殺・自傷を試みている被拘禁者に多く見受けられる不自然な行動を容易に発見することができ、被拘禁者の自殺・自傷を未然に防止するためには必要かつ合理的な制限であると認められるから、原告の右主張は理由がない。

2 本件懲罰の適否

本件においては、原告に対して、一〇日間の軽屏禁及びそれに併科して文書図画閲読の禁止、自弁衣類臥具着用の停止及び糧食自弁の停止が科されたものであるところ(当事者間に争いのない事実)、右懲罰は、軽屏禁の標準期間の一五日間(<証拠略>)に比して短期間であり、年末年始の五日間及び弁護士との面会の要求があった際にはその都度執行が停止されていること(<証拠略>)、右各併科は、右軽屏禁の効果を担保する上で必要なものであったこと、懲罰期間中も、それ以外のときと同様に入浴、運動等はなされていたこと、(<証拠略>)、懲罰執行中読書は原則として禁止されているが、弁護士との右面会の際には許可されていること、懲罰執行前後には健康診断がなされており、血圧その他健康状態に格別異常は認められなかったこと(<証拠略>)、本件懲罰後にも原告において、健康状態が悪化しているという事情は認められないことからすれば、本件懲罰の内容は、原告の未決拘禁者としての立場、その健康状態を十分配慮したものであって、前示事実関係のもとにおいて、本件懲罰が科されたことに何ら違法な点は認められない。

したがって、本件懲罰は原告の身体状況を無視して執行されたものであるとする原告の主張は理由がない。

四 よって、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松村雅司 金村敏彦 高橋綾子)

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